金沢周辺の利家ゆかりの地 Vol.4

東山・主計町エリア

浅野川のほとりに連なるひがし茶屋街主計町茶屋街は、出格子と石畳がつくる陰影の中に、今も芸妓文化と町家の暮らしが息づく金沢の名景。背後には、城の鬼門を護った宇多須神社、豊臣ゆかりを今に伝える豊国神社が控え、前田家の信仰史と茶屋町の粋が地形の上で交わります。
本ページでは、川面に映る灯や格子の細工、裏路地の静けさまで伝わる360°写真で、昼の町家美/夕景の灯り/四季の装い(桜・新緑・紅葉・雪)を立体的にガイド。撮影・散策のベスト時間帯や橋・広見の眺望ポイント、神社参拝と茶屋見学の回遊モデルまで、初めてでも迷わない見どころの“芯”をまとめてご案内します。

東山・主計町エリアマップ

主計町茶屋街(かずえまちちゃやがい)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆☆
 視覚的魅力:☆☆☆
 体験的価値:☆☆

金沢 主計町茶屋街

主計町茶屋街(かずえまちちゃやがい)は、浅野川の南岸に沿って続く情緒豊かな花街で、金沢三茶屋街(ひがし・にし・主計町)の一つに数えられます。明治初期に形成され、ひがし茶屋街の対岸に位置しながらも、より静かで落ち着いた雰囲気を今に残しています。茶屋の多くは木造二階建てで、川に面した出格子や格子窓から漏れる灯りが夜景としても美しいと評判です。

この地は、かつて加賀藩士・杉浦友之進が屋敷を構えた地域で、その家老・主計頭(かずえのかみ)の名をとって「主計町」と呼ばれるようになったと伝わります。藩政時代の面影を色濃く残す通りには、芸妓衆が今なお芸を磨く茶屋が軒を連ね、古都金沢の粋と静謐を感じられる一角です。

成立年明治初期(1870年代頃)
由来加賀藩士・主計頭(かずえのかみ)にちなむ町名
構造・特徴浅野川沿いの木造二階建て茶屋群、格子窓と石畳が特徴
主要建造物中の橋、主計町緑水苑、久保市乙剣宮
現存状況良好(現役茶屋が営業中)
文化財指定金沢市指定保存地区(伝統的建造物群保存地区)
備考ひがし茶屋街と並び、観光と伝統芸能の両立が図られる地域

🗺 住所:石川県金沢市主計町
🚶 アクセス
前のスポット(例:にし茶屋街)から徒歩約25分(約2km)またはバス利用で約10分。 ひがし茶屋街からは浅野川大橋を渡って徒歩約3分(約0.3km)。

⏳ 見学の目安
短時間の散策:約15〜20分
茶屋街の夜景・橋周辺も楽しむなら:約40分

📍 見どころ

  • 中の橋:ひがし茶屋街との間にかかる小橋。朱塗りの欄干と浅野川の流れが絵になる人気撮影スポット。
  • 久保市乙剣宮:地元の氏神として親しまれる神社で、芸妓衆の守護神として信仰を集めている。
  • 主計町緑水苑:川沿いの小さな庭園。桜の季節には花びらが浅野川に舞い、幻想的な光景が広がる。
  • 季節限定の楽しみ方:春は桜、夏は川床、秋は紅葉、冬は雪化粧と四季折々に異なる表情を見せる。

📌 トリビア

  • 作家・泉鏡花ゆかり:主計町は文豪・泉鏡花が幼少期を過ごした地でもあり、近くに泉鏡花記念館がある。
  • 静寂の夜景スポット:夜間は観光客が少なく、格子越しの灯りが川面に映える幻想的な景観が魅力。
  • 芸妓文化の継承:現在も少数ながら芸妓衆が在籍し、伝統芸能の場として機能している。

ひがし茶屋街(東山ひがし伝統的建造物群保存地区)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆☆
 視覚的魅力:☆☆☆
 体験的価値:☆☆☆

金沢 ひがし茶屋街

金沢の浅野川東岸に位置するひがし茶屋街は、江戸時代の文化・遊興の面影を色濃く残す茶屋街として知られています。文政3年(1820年)、加賀藩は城下に点在していたお茶屋を統合し、「東の廓(くるわ)」と呼ばれる区域に整備。その後、格式高い茶屋文化を育んできました。現在では、国の重要伝統的建造物群保存地区に指定され、石畳を敷いた通り、出格子(でごうし)、伝統的町家建築などが整然と保存され、時代を超えた情緒を伝えています。

創設年文政3年(1820年)
設置主体加賀藩(12代藩主・前田斉広期)
構造・特徴茶屋建築様式の木造町家、出格子、2階座敷、石畳路地、通りの景観統制
保存指定2001年(平成13年)11月14日、「東山ひがし伝統的建造物群保存地区」として国指定
面積・規模約1.8ヘクタール、南北約130m・東西約180m。保存区域内建築約140戸、そのうち伝統建築約6割。
変遷・整備風紀乱れによる一時廃止 → 慶応3年(1867年)に公認再開。戦災を逃れたことで多数の建築が原形を保つ。近年、修景計画により伝統的外観への復元や景観整備が進む。
現存状況良好。飲食店・土産店・見学茶屋として活用されている。
備考「志摩」は国指定重要文化財。昼は自由に見学可、夜は格式の高い席のみ。懐華樓などの茶屋見学可能。

🗺 住所:石川県金沢市東山
🚶 アクセス
主計町茶屋街から徒歩3分 約200m

⏳ 見学の目安
散策と外観鑑賞:30〜45分
茶屋見学・寄り道込み:60分以上

📍 見どころ

  • 志摩(しま)茶屋:「志摩」は2003年12月25日に“国指定重要文化財”。もとは遊廓格式の高い茶屋。庭を眺めながら抹茶を楽しめる。
  • 懐華樓(かいかろう):かつての豪商茶屋。昼間は一般公開、金箔畳や加賀友禅、漆塗りの階段など豪華な意匠が見どころ。
  • 出格子と木虫籠(きむすこ)の町家建築:1階には目の細かい格子、2階には欄間窓など。町屋茶屋建築の特徴が並行して見られる。
  • 石畳の通り:通りには石畳が敷かれ、傾斜のある敷石が歩くほどに風情を増す。
  • 夕暮れ・ライトアップ:夕方以降、軒灯や街灯が灯る時間帯は、三味線や笛、琴の奏でが遠くから聞こえ、極上の風情が訪れる。
  • 伝統工芸・金箔体験・工房店:金箔を使った工芸体験、小物工芸店、和菓子・抹茶店などが軒を連ね、散策しながら立ち寄り可能。
  • 広見(ひろみ)眺望点:茶屋街の見通しが開ける地点。「通りの眺め」「見下ろしの眺め」など複数の眺望点として整備されている。

📌 トリビア

  • 「東の廓・西の廓」としての起源:当初、城下の茶屋を東西二か所に区画して“廓”と呼び、風紀管理や藩の統制を意図した配置。 → ひがし=東廓、にし=西廓。
  • 戦火を逃れた奇跡:金沢市は第二次世界大戦時に空襲を受けなかったため、当時の茶屋建築が多く現存。
  • 景観整備と保存政策の転機:2001年に重要伝統的建造物群保存地区に指定されて以来、景観修景と住民協力のもと伝統建築の保存が本格化。
  • 土塀や格子が見守る街:表通りより一本入った裏路地にも町家が続き、扉・窓の格子や通り庭・中庭の意匠もじっくり見ると茶屋町の奥深さを感じさせる。
  • 「ひがし」「にし」「主計町」で三茶屋街:金沢には三つの茶屋街があり、ひがし茶屋街が最大規模・最高格式とされる。

宇多須神社(うたすじんじゃ)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆☆
 視覚的魅力:☆☆☆
 体験的価値:☆☆

金沢 宇多須神社

ひがし茶屋街の奥、浅野川を見下ろす小高い社地に鎮座する宇多須神社は、奈良時代・養老2年(718)に卯辰治田多聞天社として創建されたと伝わります。江戸初期には、藩祖・前田利家の神霊を祀る卯辰八幡宮が境内に建てられ、城の鬼門(北東)を護る加賀藩の守護社として崇められました。明治の神仏分離後に現在名へ改称。境内には「利常公酒湯の井戸」などの伝承も残り、茶屋街の喧騒を背に、前田家ゆかりの記憶が静かに息づいています。

築造年養老2年(718)創建伝承/慶長4年(1599)に卯辰八幡宮創建
築造者(創建)卯辰治田多聞天社として創祀/(卯辰八幡宮)前田利長が利家公を合祀
構造・特徴拝殿・本殿・社務所から成る社殿構成、石段参道、境内に「利常公酒湯の井戸」
改修・復元歴明治期に改称(高皇産霊社→卯辰社→宇多須神社)・県社昇格、以後保存修理を実施
現存状況良好(境内自由参拝)
消滅・損壊特記なし(※一部施設は随時修繕)
文化財指定指定なし(「金沢五社」の一社)
備考鬼門鎮護の社/節分祭ではひがし茶屋街の芸妓衆が奉納舞・豆まきを実施

🗺 住所:石川県金沢市東山1-30-8
🚶 アクセス
ひがし茶屋街から徒歩3分 180m

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約10~15分
じっくり観光するなら:約30分(境内の石段・社殿・井戸など)

📍 見どころ

  • 卯辰八幡宮ゆかり:利家の神霊を祀った藩社の舞台。加賀藩の守護としての歴史を感じる。
  • 利常公酒湯の井戸:病平癒の伝承が残る神水の井戸。社殿奥でひっそりと守られている。
  • 境内の狛犬と社殿意匠:石段と拝殿の端正な構え、写真に映える落ち着いた社叢が魅力。
  • 季節限定の楽しみ方:春は桜、夏は新緑、夕景や提灯灯る節分期の夜間参拝も風情たっぷり。

📌 トリビア

  • 鏡の伝承:浅野川の河辺から出土した古鏡の裏に「卯」「辰」の紋があり、卯辰神を祀ったのが起こり。
  • 改称の歴史:明治2年に高皇産霊社、同5年に卯辰社、明治33年に宇多須神社へ改称し、明治35年に県社へ。
  • 金沢五社:椿原天満宮・宇多須神社・小坂神社・神明宮・安江八幡宮の「金沢五社」の一社として市民に親しまれている。

豊国神社(ほうこくじんじゃ)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆☆
 視覚的魅力:☆☆☆
 体験的価値:☆☆

金沢 豊国神社

豊国神社は、豊臣秀吉を祀る神社で、全国各地に分社が存在します。金沢における豊国神社は、卯辰山公園の丘陵地に鎮座しており、加賀藩祖・前田利家が秀吉と親密な関係にあったことから、ゆかりの地の一つとして信仰を集めてきました。江戸時代、徳川幕府下で秀吉を公然と祀ることは困難でしたが、明治以降にその歴史的関係を象徴する形で再興・創建されたと伝わります。豊かな自然に囲まれた静かな環境で、秀吉と加賀藩の深いつながりを感じることができます。

パノラマ写真

創建年元和2年創祀(のち明治期に遷座・再興、現地は明治40年)
構造・特徴拝殿・本殿・神門などを備える普通の神社構成
改修・移転歴諸時代に修築、戦災・自然災害の影響により再建歴あり
現存状況小規模な社殿として存続
文化財指定特記なし
備考地元信仰・祭祀行事あり

🗺 住所:石川県金沢市末広坂(卯辰山公園内)
🚶 アクセス
アクセス 金沢駅から北陸鉄道バス(卯辰山方面行)で約20分、「末広坂」または「卯辰山公園口」バス停下車後、徒歩約10分

⏳ 見学の目安
10〜15分ほどで拝殿・境内を見て回る程度

📍 見どころ

  • 拝殿・本殿:豊臣秀吉を祀るお社として、比較的簡素だが由緒ある構成
  • 祭祀行事:例祭日には地域の人々が参加する神事が行われることがある
  • 社叢と参道:周囲に緑が多く、参道や社叢の静けさが落ち着きを与える

📌 トリビア

  • 豊国神社は秀吉の死後、全国各地で建立されましたが、金沢の神社は、徳川政権下で公に祀れなかった時代を経て、明治期以降に再興・創建されたと伝わります。
  • 金沢の豊国神社は、利家・利長・徳川政権時代との関係を象徴する存在として、地元に一定の支持を得ている伝承がある。

前ページ

前田利家ゆかりの地 インデックスページに戻る

comment