金沢城ガイド Vol.5

見るだけの城から、体感する城へ。
本丸の高台から東ノ丸へ続く石垣線を、360度パノラマで一望。最古級の野面積みが残る戌亥・辰巳・丑寅の各櫓跡、金沢城の中枢・本丸園地、重要文化財鶴丸倉庫、そしてガラス張りの鶴の丸休憩館まで——歴史の層と絶景を、没入的にめぐります。

本丸・東ノ丸

戌亥櫓跡(いぬいやぐらあと)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆
 視覚的魅力:☆☆
 体験的価値:☆

金沢城公園 戌亥櫓跡

金沢城の北西隅、いわゆる「戌亥(いぬい=北西)」の方角に位置していた櫓の跡が、現在の戌亥櫓跡です。本丸を囲む石垣の角に建っていたこの櫓は、城の防御上、北西方向の要を担う重要な監視拠点でした。 その名の通り、十二支の方位「戌亥(北西)」を示す場所に建てられ、城外の浅野川方向を見張る役割を果たしていました。

櫓自体は度重なる火災によって焼失し、宝暦9年(1759年)の大火以降は再建されず、石垣のみが残されています。現在は石垣の上に展望スペースが整備され、金沢城の城郭構造を俯瞰できる絶好のビューポイントとして親しまれています。

パノラマ写真

築造年文禄元年(1592年)頃と推定
築造者前田利家(加賀藩初代藩主)
構造・特徴隅櫓跡、野面積み石垣上に建設/城郭北西隅に位置する防御・物見櫓
改修・復元歴宝暦の大火(1759年)で焼失、以後再建なし/平成期に石垣補修整備
現存状況櫓は消失、石垣および基礎構造が現存・整備済み
文化財指定金沢城跡(国指定史跡)の一部として保護対象
備考本丸西面防御線の要/現在は展望スペース・説明板が設置

🗺 住所:石川県金沢市丸の内1−1(金沢城公園内)
🚶 アクセス
「三十間長屋」から徒歩約2分(約150m)。

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約5分
じっくり観光するなら:約15分(石垣と眺望)

📍 見どころ

  • 野面積みの古石垣:16世紀末期の築城当初に積まれたとされる石垣は、自然石を活かした素朴な迫力。
  • 展望ポイント:卯辰山、浅野川、金沢市街を一望。朝日・夕日の時間帯は特に美しい。
  • 城郭全体の俯瞰:本丸から二の丸、鶴丸倉庫方面まで見渡せ、城構成の立体感を体感できる。
  • 四季の風情:春は桜、秋は紅葉、冬は雪の白と石垣の黒が織りなす美観が楽しめる。

📌 トリビア

  • 名称の由来:「戌亥」は十二支で北西を意味し、方角名としての地名が櫓跡に冠された。
  • 本丸防衛の要:戌亥方向は北陸道方面からの進入を想定した防衛線上に位置していた。
  • 最古級の石垣:丑寅櫓跡と並び、金沢城内で最も古い野面積み石垣が残る地点の一つ。
  • 前田家時代の遺構:利家入城後に築かれた初期石垣がほぼ当時の姿で現存する貴重な例。

本丸園地(ほんまるえんち)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆
 視覚的魅力:☆
 体験的価値:☆

金沢城公園 本丸園地
金沢城公園 本丸園地

金沢城の最も高い位置に広がるのが「本丸園地」。前田利家が入城した天正11年(1583)以降、金沢城の中心として整備された場所で、藩主の居館である「本丸御殿」が存在した中枢エリアです。 現在は建物こそ残っていませんが、整備された芝生広場の下には御殿跡の礎石や礎盤の位置が確認されており、石垣に囲まれた高台からは金沢の城下町と卯辰山方面が一望できます。

本丸御殿は度重なる火災により失われ、特に1759年(宝暦9年)の大火では城内の主要建物とともに焼失。その後、藩主の居所は二の丸御殿へと移され、本丸は防衛拠点としての性格を強めていきました。現在の園地は平成期に整備され、城内の遺構を保全しつつ、金沢城の中枢を実感できる散策空間として公開されています。

パノラマ写真

築造年天正11年(1583年)以降、前田利家による築城開始時に造成
築造者前田利家(加賀藩初代藩主)
構造・特徴高台の平坦地に御殿・櫓・庭園などを配した中心区画。周囲を石垣で囲む。
改修・復元歴宝暦の大火(1759年)で焼失 → 明治以降は陸軍施設 → 平成期に園地化整備
現存状況御殿は現存せず、石垣・地形・園地として整備・公開
文化財指定金沢城跡の一部として国指定史跡
備考園地中央部に御殿跡の礎石群、周囲に辰巳櫓跡・丑寅櫓跡・戌亥櫓跡が位置

🗺 住所:石川県金沢市丸の内1−1(金沢城公園内)
🚶 アクセス
「戌亥櫓跡」から徒歩約2分(約130m)。

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約10分
じっくり観光するなら:約30分

📍 見どころ

  • 金沢城の中枢跡:前田利家が拠点とした御殿跡で、金沢城の原点を感じられる場所。
  • 石垣群:複数時代の石積み技法(野面積み〜切込接ぎ)が混在し、加賀藩の築城技術の変遷を観察できる。
  • 眺望:卯辰山・浅野川・城下町が一望でき、金沢の地形を理解するのに最適。
  • 春の桜:園地周囲に植えられた桜並木が満開となる春には花見スポットとしても人気。

📌 トリビア

  • 御殿の広さ:本丸御殿は敷地約3,000坪を占め、加賀藩主の政務・儀礼の中心であった。
  • 城の「心臓部」:城郭の防衛線上でも最も高所にあり、敵に最後まで抵抗する「詰の丸」的役割を担った。
  • 陸軍時代の痕跡:明治以降は陸軍の火薬庫・兵舎が置かれ、地形改変の跡が一部に残る。
  • 発掘成果:近年の調査で、礎石列や排水溝、焼土層などが確認され、宝暦の火災規模を示す貴重な資料となっている。

辰巳櫓跡(たつみやぐらあと)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆
 視覚的魅力:☆☆
 体験性価値:☆

金沢城公園 辰巳櫓跡
金沢城公園 辰巳櫓跡

辰巳櫓跡は、金沢城の本丸から東ノ丸側にかけての石垣上に位置する櫓跡地で、かつては「辰巳(南東)の方角」を守る隅櫓の一つでした。江戸時代、辰巳櫓は櫓・中櫓・丑寅櫓とともに高石垣上にそびえ、百間堀を挟んで兼六園方面・小立野台地側の防衛を構築していたと伝えられています。現在は櫓そのものは存在せず、石垣跡や櫓台と周囲の地形が見どころとなっています。

現地では、復元・修復整備された石垣が階層的に積まれており、最上部からは犀川・兼六園・金沢市街地などが見渡せる展望点にもなっています。特に「4段に積み上げられた石垣構造」が特徴的で、要塞的な石垣の造形美を感じられます。

パノラマ写真

築造時期江戸期(正確年次は不明)
構造・特徴隅櫓跡/石垣・櫓台遺構(複段形状)
改修・修復明治期・大正期の石垣改変を含む補修;近年の整備で石垣段数復元等
現存状況櫓建物なし、石垣・基礎構造が現存・整備公開
見どころ石垣の段構成、展望景観、周囲防衛ラインとの位置関係

🗺 住所:石川県金沢市丸の内付近(城内東側)
🚶 アクセス
本丸園地から徒歩2分程度。

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約 5分
じっくり観光するなら:約15分

📍 見どころ

  • 段構成の石垣美:4段に積まれた石垣がピラミッド状に見える様相で、強固な防御を想起させます。
  • 展望視点からの眺め:石垣上部から兼六園方向・市街地方向が広く見通せ、季節変化の風景も楽しめます。
  • 防衛ラインとの関係性:丑寅櫓跡・中櫓跡との配置関係により、城郭の縦断的防衛構造を読み取る手がかり。
  • 石垣高差と迫力:道路レベルから見ると石垣高差が30m以上に達する箇所もあり、威厳を感じさせます。

📌 トリビア

  • 名称「辰巳」の意味:方角名としての辰巳(南東)を指し、櫓の位置を示す名称として採用された。
  • 櫓複数配置の象徴:辰巳・中櫓・丑寅の3櫓が百間掘を挟んで配されていたとされ、城の東側防衛の中核をなしていた。
  • 明治期の改変:敷地の縮小・石垣上部削除などが行われ、現在の形状は整備復元部分を含む。

丑寅櫓跡(うしとらやぐらあと)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆
 視覚的魅力:☆☆
 体験的価値:☆

金沢城公園 丑寅櫓跡
金沢城公園 丑寅櫓跡

丑寅櫓跡は、金沢城の東ノ丸、そして本丸の北東隅(丑寅の方角)に位置した隅櫓(見張り櫓)の跡地です。城の物見や防衛的な役割を担った櫓があった場所として、その名が残されています。現在では櫓そのものは残っておらず、櫓を支えていた石垣の跡や基礎部分が観察されるのみですが、見晴らしのよい展望スポットとして知られています。

この石垣は、文禄元年(1592年)に築造されたと推定され、城内でも最古級の石垣の一つとされており、野面積みの手法で積まれています。櫓自体は1759年(宝暦9年)の「宝暦の大火」で焼失し、その後再建はされませんでした。

パノラマ写真

築造年1592年(文禄元年 推定)
構造・特徴隅櫓(物見・防衛用途)/野面積み石垣を基礎とする設置
改修・復元歴焼失後再建なし
現存状況櫓は消失、石垣・石組の跡が残る
消滅・損壊1759年の火災で焼失
備考見晴らしの良い展望台として整備。兼六園・市街地・山並みを見渡せる景観点。城内最古石垣とされる。 ([pref.ishikawa.jp], [kojodan.jp])

🗺 住所:石川県金沢市丸の内付近(城内東ノ丸側)
🚶 アクセス
辰巳櫓跡から徒歩2分程度(約170m)です。

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約 5分
じっくり観光するなら:約 15分

📍 見どころ

  • 最古級の石垣:野面積み構造の石垣は文禄年間のものと推定され、城内でも歴史の深さを伝える遺構
  • 展望の良さ:兼六園、金沢市街、戸室山・医王山などが見渡せ、特に桜の季節や市街夜景が映える
  • 城の輪郭理解点:櫓跡位置を視点に本丸・東ノ丸・他櫓との関係性を読み取れる

📌 トリビア

  • 「丑寅」の方角名由来:本丸から見て北東、つまり十二支の「丑・寅」の方角に位置することから名付けられた
  • 焼失後再建なし:宝暦の大火で焼失後、再建計画はなく、建物が残らなかった
  • 隅櫓配置の意図:東ノ丸の隅を守る拠点として設置され、城郭全体の防御ネットワークを構成していた可能性

鶴丸倉庫(つるまるそうこ)

⭐おすすめ度
 歴史的価値:☆☆☆
 視覚的魅力:☆☆
 体験的価値:☆☆

金沢城公園 鶴丸倉庫

鶴丸倉庫は、金沢城跡に現存する近世の 土蔵(蔵)建築 の代表例のひとつで、もともとは武具を保管する蔵(武具蔵)として建築された倉庫です。江戸時代末期、嘉永元年(1848年) に再建された建物が現在まで残っています。 蔵としての機能だけでなく、城郭の整備と防火・保存を兼ねた意匠性を備えた構造が見られる例であり、城郭史・建築史の観点からも高い価値を持つ遺構です。

パノラマ写真

築造年/再建年嘉永元年(1848年)再建
構造・特徴土蔵造(二階建て)、切妻屋根・桟瓦葺、外壁塗籠+腰部石貼り
築造者・設計加賀藩の御大工 山本勝左衛門 担当とされる
改修・復元歴江戸期以降の使用(明治以降は陸軍の被服倉庫として利用)
2008年(平成20年)に国の重要文化財に指定
現存状況現存・外観公開。定期的に内部が特別公開されることあり
文化財指定国指定重要文化財(2008年指定)
備考延床面積:およそ 636 m²(下屋を除く)
城郭内に残る土蔵としては国内でも最大級規模のひとつ
「鶴丸」という名称由来について、城内の「鶴の丸」説を伝える案内もあり

🗺 住所:石川県金沢市丸の内71-18あたり(金沢城東の丸付段)
🚶 アクセス
丑寅櫓跡から徒歩2分(170m)程度です。

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約5分
じっくり観光するなら:約 15分

📍 見どころ

  • 石貼り腰壁と意匠的外装:外壁下部に石貼りを施した意匠が特徴的で、城郭蔵建築としての見応えがある
  • 大規模な空間構成:内部は1・2階とも一室構成で、武具収納を想定した大倉庫としての構造を残す
  • 木造構造・屋根形式:切妻屋根・桟瓦葺で、外観が城郭建築と調和する様式を採用
  • 城の景観との連携:三十間長屋など城郭建築との軸線が意識されて設置されており、連続した景観構成をなす
  • 内部公開チャンス:4月〜11月の特定日には内部も公開されることがあります(事前確認が推奨)

📌 トリビア

  • 「鶴丸」の名前の由来説:城内に白鶴が舞い降りたという伝承により「鶴の丸」と名付けられた丸があり、それに隣接して倉庫があるため名がついたと案内されることがあります。
  • 宝暦の大火での被害と再建:城内の他建築が火災で焼失した中、宝暦の火災後には一時は2棟あった蔵が、1759年(宝暦9年)の火災後には1棟に整理され、1848年に再建されたとされています。
  • 意外と新しくない江戸末期建築:城郭というと戦国〜江戸初期を想像しがちですが、この倉庫は江戸末期まで建築され続けていた証と見ることができます。
  • 城郭に残る少数建物のひとつ:城内で現存する藩政期建築は、石川門・三十間長屋・鶴丸倉庫など限られており、蔵として残されたことにより後世まで姿をとどめています。

鶴の丸休憩館(つるのまるきゅうけいかん)

 歴史的価値
 視覚的魅力:☆☆☆
 体験的価値:☆

金沢城公園 鶴の丸休憩館
金沢城公園 鶴の丸休憩館

金沢城公園の中心部、橋爪門や五十間長屋を望む位置に建つ「鶴の丸休憩館」は、観光客と市民の憩いの場として2017年に開館しました。館内は木の温もりを感じる落ち着いたデザインで、ガラス越しに城郭の雄大な景観を一望できるよう設計されています。 建物名の「鶴の丸」は、かつて城内に存在した曲輪(くるわ)の名称に由来し、前田家が守り抜いた金沢城の伝統と美意識を現代に伝える場所です。

館内には、城の復元事業や発掘調査の成果を紹介する展示スペースのほか、和菓子やお茶を楽しめる「豆皿茶屋」が併設されています。特に大型のパノラマ窓から望む五十間長屋と菱櫓の景色は圧巻で、天候や季節によって表情を変える金沢城の魅力を味わえます。 また、館内ではVR映像「よみがえる金沢城二の丸御殿」も上映され、前田利家・まつの時代の城の姿をデジタルで体験することができます。

パノラマ写真

開館年2017年(平成29年)
設計・施工石川県建設工事部・五井建築設計事務所
構造・規模鉄骨造一部木造、平屋建て、延床面積 約422㎡
主な施設展示スペース、休憩所、飲食スペース(豆皿茶屋)、映像コーナー
特徴ガラス張りの眺望空間、県産木材使用、城郭景観との調和設計
現存状況現存・一般公開(入館無料)
文化財指定文化財建造物指定なし(公園内公共施設)
備考旧「鶴の丸休憩所」(2001年設置)を建て替えた新施設

🗺 住所:石川県金沢市丸の内1-1(金沢城公園内)
🚶 アクセス
鶴丸倉庫から、徒歩1分(30m)で到着します。

⏳ 見学の目安
短時間での見どころ:約5分
じっくり観光するなら:約30分(カフェ利用・映像鑑賞含む)

📍 見どころ

  • ガラス越しの城郭絶景:五十間長屋・菱櫓・橋爪門を一望する絶好のビューポイント。
  • 豆皿茶屋:九谷焼や山中塗の器で提供される和スイーツや軽食が人気。
  • VR映像シアター:金沢城二の丸御殿をCGで再現し、往時の藩主空間を体感できる。
  • 県産木材の温もり:能登ヒバなど地元材を使用した温かみのある設計。
  • 四季折々の風景:春の桜、夏の青空、秋の紅葉、冬の雪化粧がガラス越しに広がる。

📌 トリビア

  • 景観配慮の建築:高さを抑え、外観を白壁調にして城郭と一体化するよう設計されている。
  • 名前の由来:「鶴の丸」は、前田家ゆかりの鶴が舞い降りた伝承にちなむ曲輪名。
  • 休憩以上の機能:情報発信・文化紹介・教育展示を兼ねる“学びと癒しの拠点”。
  • 金沢城散策のハブ:復元建築群の中心にあり、散策途中の休憩や待ち合わせに最適。

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