2024年、エミー賞を受賞した話題のドラマ『SHŌGUN 将軍』。
この作品は、徳川家康をモデルにした”将軍”と、彼に仕えた英国人航海士ジョン・ブラックソーンを描いた物語です。
実はこのドラマの主人公ブラックソーンのモデルとなったのが、ウィリアム・アダムス(日本名:三浦按針)。
劇中では、彼が日本で「按針」と呼ばれるようになる過程が描かれますが、これは史実に基づいたものです。
「按針」とは航海士や水先案内人を意味する言葉で、アダムスは家康の信任を受け、日本初の西洋式帆船を建造したことから、この名を与えられました。
ドラマの中でもこの名前が使われており、物語のリアリティを高める重要な要素となっています。
16世紀末、大航海時代の荒波に揉まれ、日本へと流れ着いた英国人。
関ヶ原の戦いを経て家康の信任を得た彼は、「三浦按針」の名を与えられ、現在の横須賀・逸見(へみ)の地に250石の領地を拝領しました。
彼は日本初の西洋式帆船を建造し、幕府の外交顧問として活躍し、家康の側近として重要な役割を果たします。
しかし、故郷の英国へ帰ることは叶わず、最期の地となった日本で生涯を終えました。
彼が眠る横須賀には、按針の足跡を今に伝える史跡が点在しています。
今回は、ドラマの世界をリアルに体感できる按針ゆかりの地を巡る旅へ。
江戸時代の面影を残す街道、按針の眠る墓、そして彼の子が創建したとされる神社――
歴史のロマンを感じながら、400年前の激動の時代を生きた”青い目の侍”の足跡を辿ります。
按針塚駅から按針夫妻の墓へ
京急線の按針塚駅で下車すると、周囲は静かな住宅街。
駅名に「按針」の名が刻まれていることからも、この地が彼と深い関わりを持つことが伝わってきます。

駅からしばらく歩くと、按針夫妻の墓がある高台へ続く急坂に差しかかりました。
なかなかの勾配で息が上がりますが、この道こそが按針ゆかりの場所へと続く大切なルート。
住宅街を抜けると、公園の入り口に年季の入った石の階段が現れました。

三浦按針夫妻の墓と、彼が見たであろう景色
階段を登りきった先にあるのが、三浦按針と妻の墓。
風化した墓石は静かに佇み、400年以上の時を経てもなお、ここが彼の眠る場所であることを示しています。

按針が日本に渡来したのは1600年。彼が乗っていたオランダ船「リーフデ号」は、大航海の果てに豊後(現在の大分県臼杵)に漂着しました。
家康は彼の知識を高く評価し、幕府の外交顧問として迎え入れました。
按針が築いた西洋式の帆船は、家康の海洋政策に大きな影響を与え、日本の造船技術にも革新をもたらしました。
高台からの絶景
墓のそばには、見晴らしの良いスポットがあります。眼下には横須賀の町並み、そしてその向こうには東京湾の青い水面が広がっていました。海風が心地よく、按針が見たであろう同じ景色を眺めながら、彼の人生に思いを馳せました。かつてはここから、彼が造った船が江戸へ向けて出航していたのかもしれません。

下り坂の先にある鹿島神社へ
帰り道は、緩やかな下り坂を歩きながら次の目的地へ向かいます。
途中には、古い道標が残されており、この道がかつて江戸と浦賀を結ぶ重要な街道の一部であったことを実感しました。
やがて、鹿島神社に到着。
祭神は武甕槌命(たけみかづちのみこと)で、地元の守護神として祀られてきました。
この神社は、三浦按針(ウィリアム・アダムス)の子が造営したとの伝承が残っています。
按針が家康から与えられた逸見の領地に根付き、その子孫がこの神社を創建したといわれています。
歴史の流れの中で、按針の血脈が日本に溶け込み、今もこの地で語り継がれていることを感じました。

ここでは、特別な御朱印をいただくことができます。なんと、按針の名が記されたもの。歴史好きにはたまらない一枚です。鹿島神社が按針の子孫と関わりがあると知り、改めて彼が日本の地で築いた縁の深さを実感しました。
按針の菩提寺・浄土寺へ
神社から歩いてすぐの場所に、按針の菩提寺である浄土寺があります。
静かなたたずまいの寺で、境内には歴史の重みが感じられます。
こちらでも御朱印をいただき、按針の魂が眠る地を訪れた証を手にしました。

按針は1620年、平戸で生涯を終えましたが、「江戸が見える場所に埋葬してほしい」と遺言を残したと伝えられています。
その遺志を汲んで、この逸見の地に供養塔が建てられました。
彼の墓は歴史の中で幾度も荒廃しましたが、1872年に横浜在住の英国商人が新聞で紹介したことをきっかけに、再び注目を集めるようになったそうです。
後には日英関係者の寄付により、1918年(大正7年)に按針塚碑が建立され、現在も多くの人々が訪れています。
横須賀駅までの散策
帰り道は、ところどころに残る古い道標を眺めながら、横須賀駅へと向かいました。現代の風景の中に、江戸時代の名残がひっそりと佇んでいるのが印象的です。

旅の終わりに
三浦按針の足跡を辿るこの旅は、単なる歴史探訪ではなく、彼の人生そのものに触れる時間となりました。
異国から日本に渡り、家康に重用され、幕府の外交顧問として活躍しながらも、故郷へ帰ることは叶わなかった按針。
彼がこの地で見つけた「新たな祖国」は、今もその名とともに横須賀の風景の中に刻まれています。
歴史を感じながら静かに歩く、そんな特別な時間を過ごせる横須賀の按針巡り。
歴史好きの方はもちろん、落ち着いた散策を楽しみたい人にもおすすめのコースです。
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