
姫路への道のりと期待感
朝、始発で新横浜を出発し、新幹線ひかりに乗り込む。何度も訪れている姫路城だが、やはり姫路駅を降りて正面に天守が姿を現すと、胸の高鳴りは抑えられない。しかもこの日は、普段は立ち入ることができない「菱の門」が特別公開されている。歴史好きにとって、まさに待ちに待った機会だった。
「また、姫路城の特別な一面が見れる」
そう思いながら城へと歩を進めると、青空に映える白鷺城が堂々と迎えてくれた。
菱の門とは?
菱の門は、姫路城の大手門を守る城門の一つで、現存する城門の中では最大規模を誇る。名前の由来は、門の装飾に菱の形が用いられていることからとされる。
築造は江戸時代初期で、国の重要文化財に指定されている。外観は堂々とした二階建ての櫓門で、敵の侵入を阻むための強固な防御施設でありながら、格式を示す装飾性も兼ね備えている。まさに「武と美」を体現した門だ。
通常は外観をくぐり抜けるだけで、内部に入ることはできない。今回の特別公開は、そうした歴史的建築の内部をじかに体験できる、貴重な機会となっている。
特別公開の入口へ
菱の門をくぐると、左手に門番所があり、受付と利用されている。ここで入場料200円を支払う。案内に従い一度外に出て、仮設の階段をのぼり2階部分から入場する仕組みになっていた。
門番所からは、門の石垣が見れる。



階段を登りきり、門の中へ足を踏み入れた瞬間、胸の中にふつふつと湧き上がる感情があった。
普段は絶対に見ることのできない空間を歩いているという事実に、自然と感謝の気持ちが込み上げてくる。たとえ小さな展示や些細な痕跡でも、そこに込められた歴史を想像できることが嬉しくてならない。
菱の門内部の印象
内部に入ると、まず驚いたのは天井の高さだ。思った以上に大きく開放感があり、太い柱が空間を支えている。格子窓からはやわらかな光が差し込み、室内は外気よりもひんやりとした心地よさを感じた。

部屋は三つに分かれており、順に通り抜けながら展示品を見学できる。壁際には関連する史料や模型が並び、時折外を見渡せる窓からは、普段は決して見ることのできない角度で天守や菱の門前の道を眺めることができる。

「ここから城を守っていたのか」
そんな想像が自然と湧いてくる場所だった。
葵の御紋との出会い
奥の部屋に進むと、大きな「葵の御紋」が描かれた箱が鎮座していた。名前は、黒漆塗長持というらしい。
歴史好きになってからというもの、この三つ葉葵の紋を見るだけで嬉しい気持ちになる自分がいる。かつてこの箱に何が収められていたのか想像すると、ただの展示物以上の重みを感じずにはいられなかった。
この箱は「黒漆塗長持」と呼ばれるもので、直径30センチほどの大きさがあり、表面には葵の紋が二つ並んで描かれている。もともとは酒井家が文書や資料を収めるために使っていたと考えられており、資料の移動の際に姫路へ伝わったとみられる。葵紋が施されていることから、酒井家と徳川家や松平家との結びつきを物語っている可能性が高い。実際、両家の間には婚姻関係が確認されており、安永3年(1774年)には酒井忠以と高松藩松平家の縁組、また嘉保3年(1831年)には酒井忠学が徳川家斉の25女・喜代姫を迎えている。
このことからも、この長持は婚礼や縁組に関連する調度品の一つであったのかもしれない。単なる収納具ではなく、家同士の結びつきを象徴する存在としての意味を帯びているように感じられた。

普段は見られない景色
窓から外を覗くと、見慣れた菱の門前の道や、堂々とそびえる天守の姿が新鮮な角度で広がっていた。何度も通った場所が、ここからはまったく違う表情を見せている。
「これが城を守る者の視点なのか」
そう思うと、同じ景色でも見え方が変わる。城内の構造が、ただの観光ルートではなく防御の仕組みであることを実感できる瞬間だった。

菱の門の役割と意味

ここで少し歴史を振り返ってみたい。菱の門は、大手門から二の丸へ至る主要ルートを守る要所に位置し、姫路城の防御構造の要であった。二階建ての櫓門は、外敵の侵入を強固に阻む構造を持ち、戦いの際には兵が籠もり防御に当たる仕組みとなっていた。
しかし同時に、菱の門は格式を示す象徴的な存在でもあった。城を訪れる大名や使者は必ずこの門をくぐることになり、姫路城の威容と権威を示す舞台でもあったのである。
防御と権威、二つの役割を兼ね備えた菱の門。だからこそ、普段は非公開の内部が今回公開されたことは、大きな意味を持つのだと改めて感じられた。
公開スケジュール・特別公開情報(2025年秋)
名称 | 「菱の門」特別公開 |
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期間 | 2025年9月1日(月)〜9月30日(火) |
時間 | 午前9:00~午後4:30(最終入城は午後4:00) |
公開場所 | 菱の門・2階櫓部 |
観覧料 | 大人・小中高校生 共に200円(別途姫路城の入城料が必要) |
公式ページ | https://www.himeji-kanko.jp/event/1697/ |
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