ニュースで奈良の博物館にて、十数年ぶりに「蘭奢待(らんじゃたい)」が公開されているという報道を見ました。
歴史好きなら誰もが一度は耳にしたことのある伝説の香木。あの織田信長が、封印されていた蘭奢待を強引に切り取らせたという逸話が残っています。
以前から「いつか実物を見たい」と思っていたのですが、奈良での公開は2025年11月の今週末で終了予定。次の公開がいつになるか分からないと知り、悔しい思いをしていました。
そんな中、ニュースで上野の森美術館で開催中の「正倉院 THE SHOW」にて、実物大の蘭奢待の複製展示と、その香りを再現した体験コーナーがあると知り、急遽訪れることにしました。
上野の森美術館へ──人と文化が交わる街
訪れたのは土曜日の昼12時ごろ。上野は観光客で大にぎわいでした。
美術館や博物館、動物園が立ち並ぶ文化の街・上野。歴史好きには、寛永寺や上野東照宮など、見どころも多く歩くだけでも楽しめます。

人混みを抜けて「上野の森美術館」へ。
入り口では「正倉院 THE SHOW」の大きな看板が出迎えてくれました。
チケット購入の列に10分ほど並び、無事入場。ふと窓口の張り紙を見ると「蘭奢待カード売り切れ」の文字。
調べてみると、香りを持ち帰れる特製カードが販売されていたらしく、定価880円がフリマサイトでは約6000円前後で取引されているとか。
その人気ぶりからも、蘭奢待という香木が人々を惹きつけてやまない存在であることを感じました。

正倉院とは?──愛と信仰が紡ぐ物語

展示の序盤では「正倉院」という場所の成り立ちが丁寧に紹介されていました。
正倉院は、奈良・東大寺の敷地内にある宝物庫で、聖武天皇と光明皇后ゆかりの品々を収蔵しています。
約1300年前、度重なる災厄の中で人々を思い、平和を祈って建立された大仏とともに、皇后が大切に残した宝物。
それが時を超えて「正倉院の宝物」として現代に伝わっているのです。
展示会場では、宝物のレプリカや再現映像が並び、古代の日本人の美意識や祈りの心を感じられる構成でした。





蘭奢待セクションへ──伝説の香木との対面

会場後半、ついに目的の「蘭奢待セクション」へ。
一室の中央には、長さ156cm・重さ11.6kgもの巨大な香木の模型が展示されています。
この蘭奢待はジンチョウゲ科の樹木が長い年月をかけて樹脂化した香木で、分析によるとベトナムからラオスの山岳地帯で産出される沈香(じんこう)と成分が近いとされています。
そして、歴史の中では足利義政、織田信長、明治天皇らがこの香木を切り取った記録が残っており、まさに日本史そのものを刻んだ香木といえる存在です。
蘭奢待の香りを体験する──時を超える香

壁際には、ガラス容器に入った「蘭奢待の香り」体験コーナーがありました。
これは、最新技術を使って正倉院事務所と高砂香料が共同で分析・再現したもので、実際に焚かれたときの香りを科学的に再現しています。
嗅いでみると、どこか懐かしいような穏やかさ。
お寺の線香にも似た、やすらぎのある香りで、派手さはないけれど深く心に沁みてくる。
まるで長い時を経て、当時の人々の祈りや思いが静かに語りかけてくるようでした。
香りが伝える、祈りと時間の記憶
蘭奢待の香りに包まれながら、ふと千年以上前の人々と同じ香りを共有していることに気づきました。
その瞬間、展示テーマの「感じる。いま、ここにある奇跡」という言葉が心に響きます。
形あるものはやがて朽ちても、香りや想い、そしてそれを守り続ける人々の心がある限り、歴史は決して途切れない。
上野の森美術館を後にしたとき、都会の喧騒の中にほんのりと残る香りの余韻が、「またいつか」と語りかけてくるようでした。
本物の蘭奢待に出会える日を夢見ながら、今日体験した香りと物語は、確かに“いま、ここにある奇跡”として私の心に刻まれました。














まとめ:正倉院の香りに触れるという特別な体験

今回訪れた「正倉院 THE SHOW」は、単なる展示ではなく、“日本の心”を五感で感じられる体験でした。
蘭奢待の香りはもちろん、光明皇后の祈りや、時を超えて受け継がれる美の形にふれることができます。
歴史に詳しくなくても、心がふと静まり、遠い昔に想いを馳せる——そんな特別な時間を過ごせる展示です。
今回は、残念ながらもう終わってしまいましたが、今後、機会があればぜひ、正倉院の奇跡を、あなたもぜひ体感してみてください。
🕊 開催情報
- 展覧会名:正倉院 THE SHOW
- 会期:2025年9月20日(土)〜11月9日(日)
- 会場:上野の森美術館(東京都台東区)
- 公式サイト:上野の森美術館
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